【日々のくらしの裏側で – vol.4】気候変動という危機を放置していいのか?袖ケ浦石炭火力発電所建設計画に立ち向かう人々

“石炭火力発電は海の魚が住めない環境をつくったり、屋外でも活動は控えてくださいとか、住んでいる住民の生活や健康を害してしまう。これは子供達、子孫に対する今生きている人間の犯罪になるとうふうに、私は考えているんですね。”

 

そう語るのは、袖ヶ浦市民が望む政策研究会の富樫孝夫さん(以下、富樫さん)。富樫さんの住む町、袖ヶ浦では、出光興産(株)、九州電力(株)、東京ガス(株)の3社が共同出資して設立した(株)千葉袖ケ浦エナジーが、大型の石炭火力発電所2基の建設を計画しています。同発電所の建設予定地は、一般の住宅地から一本大きい通りを挟んだ奥にある工場地帯内にあります。

 

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(建設予定地。住宅地から一本大きい通りを挟んだ奥にある、出光興産株式会社のバルクターミナル内にある。)

 

なぜ、袖ヶ浦の石炭火力問題に向き合うことを決意したのか。そして、自分たちの住む地域に石炭火力発電所ができるというのはどのような気持ちなのか。

富樫さんをはじめ、この建設予定の石炭火力発電所の建設計画の向き合う地域住民である川上宏さん(以下、川上さん)、石田俊道さん(以下、石田さん)に、お話を伺いました。

 

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(左から富樫さん、川上さん、石田さん)

 

まず、活動を始めたきっかけについて。石田さんがお話しくださいました。

“私がこの活動をやらなければならないという意識はですね、温暖化とか、あるいは環境問題で多くの人がやはり健康を害していると、前から新聞で見ていて関心もありました。でもやはり、それは意識だけではなく、行動して示して阻止していく、改善をしていくというのが大事だという気持ちが50代くらいから芽生えてきて。会社務めだったものですから、なかなか行動は取れなかったんですけどね。この問題は富樫さんが事務局でチラシを配ったときに知りました。今はもう定年になりましたので、ようやく自分の考えで行動をできるという時間ができたというのもあって、より多くの人々に、一人でも多くの人に活動に参加してもらいたいと思って、この活動をしています。”

 

より多くの人々に、一人でも多くの人に活動に参加してもらいたいと考える石田さん。何が一番問題と考えているのでしょうか。

“やはり、石炭火力発電所で発生する大量のCO2が温暖化につながること。それに、私達の住んでいる地元でも喘息のお子さんもおりましたし、大気汚染につながっていくことも問題です。それから、夏場になりますと光化学スモッグ注意報が発令されるんですよ。で、屋外でも活動は控えてくださいと。袖ヶ浦市の空を守るということから考えると大変なことになってきているなと。それなのに、石炭火力発電所が新しく新設されるということになると、ますます大気汚染になって、住んでいる住民の方々に健康を害するということになっていく。そういうことですから、ぜひともこれは阻止しなければならないと思っているところです。”

 

この答えに重ねるようにして話してくださったのは、袖ヶ浦市民が望む政策研究会のメンバーとして、この石炭火力発電所の問題に率先して関わってきた川上さん。

“いま、温室効果ガスが400ppm濃度を越したということは地球人類の危険が迫っているということなんですよね。450ppmを越したら命にかかわると言われています。そういう状況で、ボケッとしていていいのかという、子供達、私達のあとに残る子供達のために自分ができることなんて少ないけれど。ただね、本当に、異常気象だとかなんだとかの問題を通り越しちゃっているんですよね。COP24なんかでさらにきつい話になるだろうと、この問題についてきちんと向きあってほしいと期待しています。”

 

続けて、富樫さんがこの活動にかける想いを話してくださいました。

“石炭火力発電は海の魚が住めない環境をつくったり、屋外でも活動は控えてくださいとか、住んでいる住民の生活や健康を害してしまう。これは子供達、子孫に対する今生きている人間の犯罪になるとうふうに、私は考えているんですね。あと、今、川上さんがCO2が400ppm超えたという話が出ましたけど、ちょっと振り返ってみるとね、私が高校生の時、新潟地震があったんですね。そのときに石油タンクがなんと15基、火災になったんです。あと、北海道の十勝地震のときでしたかね、そのときも同じように石油タンクが爆発した。そして今回の3.11のときも、コスモ石油の石油タンクが燃えました。爆発自体も十分怖いことで危険だけれど、今、CO2濃度が上がると、大変なことになるんだよということが世界中で言われている。しかしながら、それを無視してね、事業者も一般市民もそれをよく真剣に考えようとしていない。そういう環境だけれど、でも、だからこそ、なんとか少しでも多くの人に危険だよと、大変なことが迫っているんだよということを、微力かもしれないけれど知らせたい。それを伝えていきたいという気持ちです。”

 

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(建設予定地付近の海岸。釣りをしている 人を多く見かける。)

 

一人でも多くの人に伝えたいという富樫さん。これからどのような活動をお考えなのでしょうか?

“今は、出光興産の社長に手紙を書くということを一生懸命やっています。そして、これからやろうとしていることははがき作戦ですね。出光興産に向けたはがきを皆さんに配って、市民の方から直接コメントを書いて送ってもらってね、市民がどれだけその関心を持っているか、どれだけ嫌だという気持ちを持っているかということを、社長に感じてもらうということを考えています。やはり、社長さんの立場からすれば、やはり金稼がなきゃいけないわけだから、環境に悪いことはわかっているけれどもやりましょうというふうな気持ちもあると思う。でも、そこは踏みとどまってもらわないと。やっぱり市民の声を届けていくというのをやりたい。なので、出光興産の本社が有楽町のところにありますね、皇居のすぐとなりですけど、ここ(袖ヶ浦)からそこまで出かけていって、直接訴える。同時に、社長に対する会談も申し入れようかというふうなことも考えています。”

 

また、千葉で作られた電気を使っている人々へのメッセージを、石田さんよりいただきました。

“私はですね、都心に住んでいる方に対しては、皆さんがお使いの電力は東京湾岸の発電所で発電した電気を使って働いているとか、あるいは住まわれているということを考えてほしい。その電気はどこに作っているのかというと、都心ではなくて、その周辺のところで工場地帯で作っているということになります。発電所のある周辺では光化学スモッグが発生しているとか、煤塵が発生しているとか、喘息のいる子供が多いとか、そういう自体を踏まえた上で、そういうところから送られてきた電気ではじめて生活しているんだと。そこで、都心の真ん中に、自分たちの使う電気を発電する発電所作ったらどうかという話になったら、いやそれは困るという判断になる。でも遠くから来るから、自分たちは直接の関係はないからと、無関心のままで、過ごされているということも多いかと思います。でも、そうじゃなくて、全国のいろんなところで作って、いろんな犠牲があってはじめて生活ができているということを自覚してもらってほしい。それで、じゃぁ住んでいるみなさんがそういう発電所の近くでも安心して生活ができるような環境をつくる、あるいはそういう設備に改造していくとか、そういうかたちでの改善を図っていく、というのが必要だと思います。あと、富樫さんが先程言ったように、環境を汚染する電力を発電させないとか、切り替えていくというようなことを率先してやってもらいたいなと。

住民の方含めてですけど、今の地球を守っていくとか、大気汚染を防ぐとか、そういうことで生きている喜びというのを皆さんで分かち合えるような、そういう形にしていきたい。私達の環境は皆さんの力で、改善をしていきたい。皆さんの協力が必要です。”

 

インタビューの中で浮き上がってきたのは、はたして私達は、あたり前のように使っている電気がどのような環境の下で作られているのかについて、気をめぐらせたことがあるのだろうかということ。

そして、次の世代のために、良い環境を残していきたいという意志を強く感じました。

 

また、余談ではありますが、文化を意味する”Culture”という言葉は、耕すという意味の“Cultivate”と語源を共にします。そして “Cultivate”という言葉は、“土地に気をかける(care)”という意味を含んでいるそうです。

ここから考えられることは、”Culture”という言葉にも”care(気にかける)”という意味が込められているのではないかということ。では、いったい何を気にかけるのか。それは、将来世代なのではないでしょうか。

袖ケ浦の方々から発せられた「魚の住めない環境をつくったり、住民の生活や健康を害したりする環境をつくったりすることは、子孫に対する今生きている人間の罪なのでは」「地球人類の危険が迫っている状況でボケッとしていていいのか」「今の地球を守っていくことを通して、生きている喜びを皆で分かち合えるような社会にしたい」という言葉のように、将来世代を気にかけるということこそ、本来の「文化(culture)」の意味なのではと考えます。

 

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(袖ケ浦の未来に青空を。記念撮影)

(高橋英恵)

 

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・袖ケ浦石炭火力発電所建設計画に関する署名はこちら

・動画:近日公開